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「JCO刑事事件裁判長 鈴木秀行殿」
臨界事故の原因、槌田敦さんの手紙

この手紙は東海村臨界事故の原因に関して、物理学者の槌田敦さんが
JCO刑事裁判・最終弁論の一月前の9月22日に裁判長に宛てて出した手紙です。
(JCO弁護団、水戸地検にも同時に送付しました)

2002年11月21日 第70回いろりばた会議
「JCO弁護団の科技庁、動燃批判」 望月彰さんのお話しから

 あの、お手元に「臨界事故の原因、槌田敦さんの手紙」っていうのがあると思うんですけど、「JCO刑事事件裁判長 鈴木秀行殿」。この内容はですね、930三周年集会に出席された方は、あそこで槌田さんが話したことと同じです。だけれどもこの手紙の方がさらにあの時の彼の話よりも集約して明快に出ております。
 で、じつはですね、これは9月22日に出されました。そして10月21日に最終弁論が行われ結審しましたけれども、その終わった後の弁護士の記者会見で弁護士はこう言ってましたよ。「最後の最後までこの最終弁論は自分たちは検討し抜いたんだよ」と。そしてその最終弁論の中に、事実上これに対する回答があったと私は思います。この手紙は裁判長にも弁護士にも、水戸地検にも出しましたんでね。という意味で、この手紙は歴史的な手紙になったと思います。

※槌田敦さん・望月彰さんは「JCO事故調査市民の会」として、この臨界事故の原因の究明に取り組んできました。

(以下 本文と添付の【表1】・【表2】)


水戸地方裁判所 二〇〇二年九月二十二日
 JCO刑事事件裁判長 鈴木秀行 殿


拝啓 JCO事件についてお知らせしたいことがあります。それは、安全委員会の調査報告書にある
  「発註者との契約上、約40リットルを1ロットとして均一化する必要が生じ」
との記述が正しくないことに関係します。
 まず、自己紹介をいたします。私は、都立大学化学科を卒業後、東京大学大学院物理課程、東京大学物理教室助手を経て、理化学研究所研究員として、熱物理学を研究しておりましたが、定年退職後、名城大学経済学部において、環境経済学を教えております。
 原発関係の裁判では、当地裁における東海第二原発裁判、仙台地裁における女川原発裁判、金沢地裁における志賀原発裁判、札幌地裁における泊原発裁判に、それぞれ原告側証人として証言いたしました。
 さて、本件JCO刑事事件には、硝酸ウラニル溶液の「均一化問題」があります。JCOはこの均一化作業に困り果て、いろいろ操作方法を変えて、ついに臨界事故にしてしまった、と安全委員会も検察も弁護団も言うのです。
 
 (一) しかし、この「均一化」とは何かが、審理回数を重ねた現在も、あいまいのままです。検察も弁護団も、単純に硝酸ウラニルの「溶液濃度の均一化」と理解しているようですが、動燃は、契約上、濃度の均一化をJCOに要請していません。
 「濃度」については、動燃とJCOの86年から93年までの契約書(1)〜(3)(表1)では、
 「ウラン濃度 350 +− 30gU/リットル」
とあります。95年から本件99年までの契約書(4)〜(6)では、
 「ウラン濃度 380gU/リットル以下」
とあります。いずれも、濃度の条件はきわめて緩く、とても濃度の均一化を強要しているとは考えられません。
 「均一」については、
「ロットは化学的性質及びウランの濃縮度が均一である製品の納入の単位をいう」とあります。化学的性質の均一とは、硝酸ウラニルと硝酸以外の成分を含まないことです。濃度は物理的性質ですし、また濃度の記述が別に存在する以上、この記述をもって、動燃が濃度の均一化を求めていると解釈することは、無理というものです。
 濃縮度の均一とは、動燃支給品以外の濃縮度の違うウランを混ぜないということを意味しますから、濃度の均一化とは関係ありません。契約書には、これ以外に、「均一」とか「濃度」という言葉は存在しません。
 この濃度について、「均一化」を最初に言ったのは、既に述べましたように、原子力安全委員会の報告書ですが、これ以後の検事の冒頭陳述などすべては、この原子力安全委員会の報告書に誘導された、ということになります。
 事件を論ずる時、まず、どのような契約だったのか、を調べることが、審理の常道の筈です。しかし、検察も弁護団も、契約書の内容に触れないことは、奇妙です。

 (二)次いで、検察は
    「硝酸ウラニルを製造するに当たっては、当然のこととして溶解装置(溶解塔)を用いることが義務づけられていた」(冒頭陳述書)
と主張します。しかし、この溶解塔は不純物を含むウラン化合物を溶解するためのものであって、精製したウラン化合物を溶解するためのものではありません。これを共用しますと、せっかく精製したウラン化合物に不純物を混ぜることになり、契約書でいう化学的性質の均一化の条件に反します。
 つまり、不純物を含むウラン化合物を溶解する装置と精製したウラン化合物を溶解する装置は別にしなければなりません。
 検察は「当然のこととして」と言いますが、このような表現を使うことからしても、共用について明文がなく、「けっして当然のこととは言えない」ことが分かります。 

 (三)さて、キログラム程度の精製したウラン化合物を、リットル程度の硝酸に溶解するには、どのような装置がもっとも良いのでしょうか。これは、化学実験室規模の作業ですから、形状制限された9.5リットルの「ステンレス製バケツ」を用いる方法が、最も簡単で、正しいのです。「バケツ」というから誤解をまねくのであって、「ステンレス製容器」と呼ぶべきです。そして、実際に、95年9月以降使用されています。JCOは、この操作を届け出て、承認を得ればよかったのです。
 しかし、検察の主張とは違って、届けでなかったことは違反というほどのものではありません。動燃に問い合わせたことがありますが、動燃にも精製したウラン化合物を溶解する特別の装置は存在しませんから、動燃も、JCOと同じように届け出も許可も得ずステンレス容器で作業をしていた筈です。しかも、このステンレス容器の使用が違反ならば、クロスブレンディングという操作やヒシャクの使用も違反ということになります。
 ところで、このクロスブレンディングは濃度の均一化には役に立ちません。かえって、濃度を不均一化させることになります。その理由は、このウラン溶液は、1リットルの中にウランを370グラムも含む濃厚溶液のため、上下混ざりにくく、一本の容器の中で上部は濃度が薄く、下部は濃くなり易いからです。そこで、製品の最初の一本をそれぞれの上部から集めると、濃度の薄いものになります。最後の一本は、最下部だけを集めることになりますから、濃度の濃いものになります。このように、意図と反して不均一化することになります。

 (四)動燃が、「濃度の均一化」を絶対条件として要請したかどうかはともかく、硝酸ウラニル溶液1ロット40リットルの濃度を均一化する作業はきわめて簡単です。
 9.5リットルのステンレス容器で、濃度370gU/リットルの溶液を4リットルづつ10回作ればよいのです。この操作は、一回で扱うウランの量は370×4=1.48kgUであって臨界制限(2.4kgU)の範囲であり、また容器は形状管理されていますから、通常の化学実験の操作として可能です。
 しかも、重量を測る化学天秤と容積を測るメスシリンダーによって、正確に濃度370gU/リットルの溶液を4リットル得ることが出来ます。これを4リットルの製品容器に入れて、10本作れば1ロットとなり、すべての容器に入っているウラン量は同じです。
 その確認には、10本について、それぞれ溶液を含む製品容器の重量を測るだけでよいのです。その値からそれぞれの容器の重量を引くだけで均一であることを確認できます。
 JCOは、ステンレス容器に、酸化ウランを1バッチ(ウラン2.4kgU)入れて溶解し、これを6〜7回くり返して1ロットの製品を作り、さらにクロスブレンディングして4リットルずつに分けましたが、「なんと愚かな作業」と言うことになります。

 (五)では何故、このように簡単にできる作業を、JCOは複雑にしたのでしょうか。
 それは、動燃がJCOに支払う委託料と関係します。契約書にある契約金額から単価を計算しますと、添付【表1】と【表2】に示しましたように、最初の契約(1)は粉末製造の契約で、kgUあたり単価は21万円程度でした。これを半分程度溶解することにして、契約(1)や契約(2)に変更するのですが、単価はほとんど変わらず、かえって引き下げられています。動燃もJCOも、当時この溶解作業は簡単と考えていたからでしょう。
 ところが、契約の回を重ねるごとに、単価は増加していきます。本件1999年の契約(6)では、単価は34万円となりました。これから粉末精製の費用21万円を引きますと、溶液製造の単価は13万円となります。ステンレス容器を用いる化学実験規模の作業ではとてもこの金額は請求できず、このステンレス容器の使用を届け出なかったものと思われます。
 そこで、「溶液の均一化」などという契約上存在しない条件を導入し、実際には溶解にステンレス容器を使い、これをクロスブレンディングする、という簡単な作業をしながら、貯塔を改造したり、溶解塔や貯塔や配管を洗浄したことにして、単価を吊り上げ、本件契約(6)では、溶解だけで730万円の収益をあげようとしたものと見られます。
 そして、本件の契約は、検察の冒頭陳述によれば、JCOの生産量全体に占める割合は0.02%に過ぎないのに、売上高に占める割合は1.51%を予定していたといいます。この『常陽』の燃料加工は、通常作業の実に75倍の稼ぎということになります。
 その結果、実行するにはあまりにも複雑な作業となり、現場が対応できず、とうとう「沈殿槽」に手をだして、事故にしてしまったと考えられます。

 (六)しかし、何故、動燃は、JCOの言うままに不当とも言える作業単価の引き上げに応じ、ウラン1キログラムあたり13万円も余計に支払うことにしたのでしょうか。
 また、ウランの酸化物の溶解という作業は、以前は動燃がしていた作業です。それをJCOにさせたのは、単価吊り上げ以外にも理由があるのでしょうか。
 それらの理由は、特殊法人動燃の体質と関係し、また国策原子炉『常陽』と関係するのでしょうから、動燃を調べなければ分からないでしょう。

結論
 以上述べましたように、今回JCO事件での検察、弁護団の立証の仕方は、基本がなっていません。動燃とJCOで交わされた「契約書」について十分に検討すべきと考えます。

 なお、この手紙のコピーは、検察、弁護団にも送ります。  
   以上
槌田 敦
      名古屋市天白区塩釜口 名城大学経済学部 FAX 052-833-4767 資料室


【表1】硝酸ウラニル溶液製造に関する契約数量、総額と単価、溶解の単価と費用
契約番号 契約年月 製品
(kgU)
契約金額
(万円)
単価
(万円/kgU)
溶解の単価
(万円/kgU)
溶解の費用
(万円)
(1) 86.3 粉末485 10500 21.6
変更(1)’ 86.10 粉末252、溶液233 10416 21.5 −0.4 −84
再変更(1)’’ 87.6 粉末199、溶液286 10458 21.6 −0.1 −42
(2) 92.12 溶液72 1850 25.7 4.1 295
(3) 93.4 溶液131 3462 26.4 4.8 629
(4) 95.9 溶液218 5160 23.7 2.1 458
(5) 96.8 溶液100 3194 31.9 10.3 1030
(6) 99.9 溶液57 1958 34.4 12.8 730
粉末205、溶液873 3100

(注)溶解の単価=単価−21.6(粉末製造費)



【表2】JCO・動燃のウラン粉末・溶液製造契約と販売実績の対応関係
契約書 冒頭陳述書
契約番号 契約日 製品量 製品番号 製造日 販売量
(1) 86.3 粉末 485 ナシ
(1)’ 86.10 粉末 252 ナシ
溶液 233 ナシ
 (1)’’ 87.6 粉末 205 常陽第4次 86.10〜87.6 粉末 205
溶液 295 86.11〜87.2 溶液 295
−−−−−−− 粉末 −− 常陽第5次 88.7〜88.4 粉末 431
(2) 92.12 溶液  72 −−−−−−−−−−−(?)
−−−−−−− 粉末 −− 常陽第6次 90.10〜91.9 粉末 306
(3) 93.4 溶液 131 93.1〜93.6 溶液131
−−−−−−− 粉末 −− 常陽第7次 94.8〜94.9 粉末 83
−−−−−−− 粉末 −− 95.6〜96.2 粉末 200
(4) 95.9 溶液 218 95.1〜96.1 溶液 218
(5) 96.8 溶液 100 常陽第8次 96.8〜96.11 溶液 100
−−−−−−− 粉末 −− 96.9〜97.1 粉末 108
−−−−−−− 粉末 −− 98.3〜98.6 粉末 129
(6) 99.9 溶液  57 常陽第9次 99.9〜99.11 ナシ

(注1)化学形 粉末(UO)、粉末(U)、 溶液(UO(NO
(注2)常陽第5〜9次の粉末製造契約書は不明
(注3)常陽第5次では、溶液生産の契約は実行されていない。



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